ハンバート友幸の庭

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「厭世マニュアル」阿川せんり 他人が理解できないと感じる人への手引き

こんにちは友幸(@humberttomoyuki)です。

 

今回は小説の紹介をするよ。

読んだ本は、阿川せんり著「厭世マニュアル」

「厭世マニュアル」は紀伊国屋書店で偶然見かけた本。

表紙がPOPな女性の絵になっていて、帯をがあると、女性がマスクをつけている絵になる。

 

帯にわたしの好きな作家さんの一人である森見 登美彦氏のコメントが書いてあったので、気になって読んでみたよ。

「厭世マニュアル」について

著者の阿川せんり氏はの北海道在住の作家。

「厭世マニュアル」で作家デビューを果たしている。

「厭世マニュアル」の舞台も北海道となっているよ。

 

本作は第六回「野性時代フロンティア文学賞」受賞作。

「野性時代フロンティア文学賞」の審査員は、冲方 丁、辻村 深月、森見 登美彦(敬称略)となっている。

 

どうして帯に森見 登美彦氏がコメントを書いていたのかが合点がいった。

審査員をやっていたんだね。

 

審査員の辻村 深月氏は他の候補作品と比較して厭世マニュアルが大賞を受賞した理由を下記のように語っている。

決め手となったのは、どちらの作品がより読者に必要とされるか、ということでした。(略)

対して、『厭世マニュアル』は、この話を必要としている人が必ずいる、と信じられる作品でした。

確かに読後感は清清しい気持ちになる良い物語だったよ。

 厭世マニュアルのあらすじ

「くにさきみさと」は22歳フリーター、レンタルビデオ店勤務、札幌在住。常にマスクを着用していないと落ち着かない性分で、自らを「口裂け女」略して 「口裂け」と自称しております。数々のトラウマから他人との交流を避けて暮らしてきましたが、心機一転、自らのトラウマ生成にまつわる人々と向き合ってい くことを決意。他人のやっかいごとに巻き込まれては、「果たしてこれで良いものか」と自問自答を繰り返すことになりますが…。第6回野性時代フロンティア 文学賞受賞作。モラトリアム系乙女が巻き込まれる、おかしみと切なさ満載の人間模様。「自分らしさ」を問いかける、等身大青春エンタメ!

いつもマスクで顔を隠していて、自分のことを小学生の頃のあだ名である口裂けと自称しているこじらせ女子が主人公。

内定の決まった就職先に就職せず、叔父が店長をやっているレンタルビデオでフリーターをやっている。

 

関係ない話だが、わたしは本を読んでいて、叙述トリックがあって、実は主人公は男ではないかと勘ぐっていた。

見事に外れたけどね。

主人公はしっかり女性だったよ。

厭世マニュアルは特徴的な文体の一人称小説

厭世マニュアルの文体は結構独特。

語りかけるような口語体なのだが、通常の「ですます」調とも違う丁寧な口調で、なんとなく古風な印象を受ける。

 

冒頭を引用するとこんな感じ。

小学生の頃、よくわからぬ鼻の病気で春になるといつもマスクをつけておりました。いえまあよくわからなかったのはあくまで子供心にで、後で聞いたところ、奇病でもなんでもない、いわゆるアレルギー性鼻炎だかなんだかだったのですが。

森見 登美彦氏の小説も独特の文体だが、厭世マニュアルはその女性版といった語り口である。

 

語り手が気の弱い女性であることを考えると文体はこの小説にとても合っている。

最初は違和感があるかもしれないが、徐々に慣れてくるよ。

成長物語としての「厭世マニュアル」

多くの物語、特に青春小説は成長の物語だ。

読者は小説を読みながら、登場人物の成長を通じて物語を味わう。

 

「厭世マニュアル」も一種の成長小説といえる。

主人公の口裂けは他人とうまく馴染めないため、マスクで顔を隠して人と接している。

レンタルビデオのアルバイトも、ずっとマスクをしているためレジには立たずに返却係をやっている。

 

店長の親戚だから特別に返却係をずっとやっている彼女を周りのアルバイトも良く思うはずがなく、彼女はレンタルビデオ店内で他のスタッフとの交流はない。

口裂け自身もそれはよくわかっているのだが、そのためにはマスクを外さないといけない。

しかし口裂けは頑なにマスクを外そうとしない。

 

そんな他人と関わろうとしない口裂けに、年末に叔父は「このままじゃだめだよ」と説教じみたアドバイスをし、1年以内に自分が店長ではなくなるかもしれないことを告げる。

 

そんな話を聞いた口裂けは新年は少し頑張ってみようと決意する。

自分に厳しい人がいないと人間だめになる。

他人は自分を映す鏡。

自分の問題に取り組む。

どれも具体的ではない話ですが、こんな日にまで説教してくださる人たちの言うことを無下にするのは、それこそ人間としてだめになりそうなのです。(略)

いつまでもこの環境は続かない。

心を入れ替えるまではいかなくとも、人の言うことを聞き入れてみるくらいはして、自分のペースで変化を起こしていくべきなのでしょう。

そうして彼女は自分の苦手な人に関わっていこうとする。

 

この小説は口裂けが変わろうとして、その結果どうなっていくかが見所でもある。

大人になったら人生は楽しいか?

口裂けの周りの人たちは、口裂けに様々な言葉を投げかける。

口裂けの大学の先輩であるアンサーセンパイ、元親友で引きこもりニートの座敷わらし、口裂けの後にバイトに入ってきた大学生の新人バイトさん、レンタルビデオの店長である叔父。

彼ら彼女らの言葉は、口裂けヘ向けられた言葉であると同時に、彼ら彼女らがどういう人間であるかという価値観を表している。

「このままじゃだめだよ」

「あんたごときが」

「おまえはいつもそうだったよな」

彼ら彼女らはある意味勝手に口裂けを評価し、値踏みしている。

 

そんな口裂けに公園で出会った中学生の女の子は「大人になったら楽しい?」と尋ねる。

あなただったらこの質問になんと答えるだろうか?

そしてあなたが口裂けと同じ立場だったとしたらなんと答えるだろう。

 

口裂けがどのような答えをするのかは本書を読んでほしい。

まとめ

「厭世マニュアル」は個人的にとても好みの小説だった。

文体は特徴的だが、今っぽい捩れた自意識がなんとも言えない。

 

他人に違和感を感じることが多い人はぜひこの本を読んでみてほしい。

読んでよかったと思える本だよ。